カスハラ関連の損害賠償責任保険— 企業が備えられる保険の種類
公開: 2026年8月26日
カスタマーハラスメント対策というと、 相談窓口の設置やマニュアル整備といった予防的な施策がまず思い浮かびますが、 万が一のトラブルに備える保険という選択肢も検討の余地があります。
今日は、カスハラに関連して企業が加入を検討できる保険の種類と、 その考え方を整理します。
1. なぜ保険という選択肢を考えるのか
1-1. 対策をしても事案はゼロにならない
相談窓口・マニュアル・研修を整備しても、 カスハラそのものの発生をゼロにすることは現実的に困難です。
予防策と並行して、実際に事案が起きた際の経済的な負担に 備える手段を用意しておくことにも意味があります。
1-2. 訴訟・法的手続きの費用は高額になりうる
悪質なクレーマーに対して法的措置を取る場合、 弁護士費用・訴訟費用が想定以上にかさむことがあります。
カスハラの損害賠償請求の考え方はこちらも参照してください。
1-3. 従業員の安全配慮義務との関係
企業には従業員に対する安全配慮義務があり、 カスハラ被害を受けた従業員のケア・休業対応にもコストが発生します。
労災・安全配慮義務の考え方はこちらも参照してください。
2. 検討できる保険の種類
2-1. 弁護士費用保険(権利保護保険)
悪質なクレーマーへの対応で弁護士に依頼する際の費用を 一定範囲でカバーする保険です。
企業向けの商品としても提供されており、 顧問弁護士を持たない中小企業にとって心理的なハードルを下げる効果があります。
2-2. 使用者賠償責任保険
従業員が業務中に被った損害について、 企業の安全配慮義務違反が問われた場合の賠償を補償する保険です。
カスハラを原因とする精神的な被害についても、 労災認定と合わせて検討されるケースがあります。
| 保険の種類 | カバーする範囲 |
|---|---|
| 弁護士費用保険 | 相手方との交渉・訴訟の弁護士費用 |
| 使用者賠償責任保険 | 従業員への安全配慮義務違反の賠償 |
| 施設賠償責任保険 | 店舗・施設での事故に伴う賠償 |
2-3. 施設賠償責任保険との違い
施設賠償責任保険は、店舗内での転倒事故など 物理的な事故に伴う賠償を対象とすることが多く、 カスハラのような言動によるトラブルとは補償範囲が異なります。
既存の保険契約がカスハラ関連の費用をカバーしているかどうかは、 個別に確認が必要です。 保険証券の補償対象を「対人・対物」だけで判断せず、 名誉毀損・業務妨害といった無形の損害まで対象になっているかを 約款で確認することが大切です。
3. 加入を検討する際の考え方
3-1. 既存の保険契約の補償範囲を確認する
新たに保険に加入する前に、 既に契約している賠償責任保険にカスハラ関連の費用が 含まれていないかをまず確認します。
保険会社・代理店に問い合わせることで、 追加の保険料をかけずに済むケースもあります。
3-2. 業種特有のリスクに合わせて選ぶ
対面接客が多い業種、金銭のやり取りが発生する業種など、 業種によってカスハラのリスクの性質は異なります。
業種別のカスハラ対策のポイントはこちらも参照してください。
3-3. 保険はあくまで補完的な位置づけ
保険はトラブルが起きた後の経済的負担を軽減する手段であり、 事案そのものの発生を防ぐものではありません。
相談窓口の設置・マニュアル整備・研修といった予防策と組み合わせて 検討することが重要です。
4. 保険加入と社内体制の関係
4-1. 保険加入だけで対策完了としない
保険に加入したこと自体を「カスハラ対策をした」と 社内で誤解してしまうと、予防的な取り組みが後回しになりがちです。
保険はあくまで事後対応の一部であり、 対策義務化への対応としては相談体制・記録の整備が中心になります。
4-2. 保険を使う場面を想定した記録の重要性
保険金の請求や弁護士費用の補償を受けるためには、 事案の経緯を裏付ける記録が必要になります。
相談・事案記録の残し方はこちらも参照してください。
4-3. 保険代理店・保険会社への相談タイミング
既に取引のある保険代理店があれば、 カスハラ対策を検討し始めた段階で一度相談し、 自社の契約内容の棚卸しをしてもらうことをおすすめします。
取引のある代理店がない場合でも、 商工会議所・業界団体を通じて紹介を受けられることがあります。
5. 保険を実際に活用する場面
5-1. 悪質クレーマーへの内容証明送付を検討する場面
執拗な要求を繰り返す相手に対して、 取引拒否・接触禁止を求める内容証明郵便を送付する際、 弁護士に文面作成を依頼する費用を弁護士費用保険で カバーできる場合があります。
出入り禁止通知書の書き方はこちらも参照してください。
5-2. 従業員が休業に至った場合の対応費用
カスハラを原因として従業員が精神的な不調で休業に至った場合、 労災保険とは別に、企業の安全配慮義務違反が問われる可能性があります。
使用者賠償責任保険は、こうした場面での賠償責任・訴訟費用の 一部をカバーする役割を果たします。
5-3. 保険会社のサポートサービスを活用する
保険商品の中には、弁護士への相談窓口や、 対応マニュアルのひな形提供といった付帯サービスが 含まれているものもあります。
保険料だけでなく、こうした付帯サービスの内容も 比較検討の材料にするとよいでしょう。
いざという時にすぐ相談できる窓口が付帯しているかどうかは、 保険料の差以上に実務上の安心感につながることがあります。
6. よくある質問
Q. 中小企業でも弁護士費用保険に加入できますか?
企業向けの弁護士費用保険は、 中小企業・個人事業主向けの商品も提供されています。
保険会社によって補償範囲・保険料が異なるため、 複数社を比較検討することをおすすめします。
Q. カスハラ専用の保険商品は存在しますか?
現時点では「カスハラ専用」と明示された保険商品は限られており、 多くは既存の賠償責任保険・弁護士費用保険の枠組みの中で カバーされる形になっています。
保険会社に個別の状況を伝えて確認することが重要です。
Q. 保険料はどの程度が目安ですか?
業種・規模・補償範囲によって大きく異なるため、 一概に相場を示すことは難しいですが、 複数の保険会社・代理店から見積もりを取ることで比較しやすくなります。
Q. 従業員個人が加入できる保険もありますか?
個人向けの弁護士費用保険や、 勤務先とは別に加入する個人賠償責任保険も存在します。
ただし企業としての対応の中心は、 あくまで組織としての予防・相談体制の整備であるべきです。
Q. 保険に加入していれば相談窓口の設置は不要になりますか?
いいえ、保険とカスタマーハラスメント対策義務化への対応は別のものです。
義務化対応で求められるのは相談体制の整備・事案記録・再発防止の仕組みであり、 保険はあくまでこれらの体制を整えた上での経済的な備えという位置づけです。
7. まとめ
- 予防策と並行して、事案発生時の経済的負担に備える保険という選択肢がある
- 弁護士費用保険・使用者賠償責任保険・施設賠償責任保険は補償範囲が異なる
- 新規加入前に既存の保険契約の補償範囲をまず確認する
- 保険加入だけで対策完了とせず、相談体制・記録整備と組み合わせる
- 保険金請求には事案の経緯を裏付ける記録が必要になる
8. 注意
本記事は一般的な保険の考え方の例示であり、法的助言・保険商品の推奨ではありません。
加入の判断は保険会社・代理店・専門家にご確認ください。
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