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カスハラ被害者へのメンタルヘルスケア・配慮

公開: 2026年7月30日

カスハラ対策の措置義務では、方針・窓口・記録の整備に注目が集まりがちですが、実際に被害を受けた従業員への配慮も、指針で求められている重要な要素です。
事案対応そのものと、被害者の心身ケアは別のプロセスとして設計する必要があります。
本記事では、会社としてできる具体的な配慮を整理します。

1. 「事案対応」と「被害者ケア」は別のもの

1-1. 事案解決≠心身回復

事実確認・相手方への対応など「事案そのものへの対応」に意識が向きがちですが、それとは別に、対応した従業員本人の心身の状態への配慮も必要とされています。
事案が「解決」しても、対応した従業員のダメージが残っている場合があります。

1-2. ケア担当の明確化

事案対応担当と、被害者フォロー担当を分けると、相談者が「対応者に気を遣って本音を言えない」状態を避けやすくなります。
小規模事業者では同一人物が兼ねる場合もありますが、役割の切り替えを意識します。

2. 具体的にできる配慮

2-1. 事案直後の声かけ

事案直後に、上長から本人の様子を確認する声かけを行います。
「大丈夫です」という返答だけで終わらせず、数日後にも短く様子を聞く習慣が有効です。

2-2. 業務調整

必要に応じて、その日は業務を調整する・休憩を取らせるなど、無理をさせない配慮をします。
本人の希望を確認したうえで、同じ相手・同じ業務からの一時的な配置転換も検討します。

2-3. 専門窓口の案内

社内に産業医・相談窓口がある場合は、利用を案内します(利用を強制しない)
EAP(従業員支援プログラム)がある場合も、同様に選択肢として提示します。

3. 「大したことない」と扱わない

3-1. 軽視がもたらすリスク

「これくらいのクレームはよくあること」と会社側が軽く扱ってしまうと、本人が声を上げにくくなり、被害が潜在化するおそれがあります。
本人が「大丈夫です」と言っていても、上長が定期的に様子を確認する習慣を持っておくことが望ましいとされています。

3-2. 二次被害の防止

相談後の不利益取扱い・情報拡散は、メンタルダメージを増幅します。
二次被害の防止は二次被害防止の記事とセットで整えてください。

4. 深刻な影響が出た場合

4-1. 安全配慮義務・労災の視点

継続的な事案や、強い心理的負荷を伴う事案によって、従業員の心身に大きな影響が生じることもあります。
こうしたケースについては、労災・安全配慮義務の記事でも整理していますので、あわせてご確認ください。

4-2. 休職・退職に至る前の対応

本人の休職・退職につながりかねないケースへの向き合い方はこちらにまとめています。
早期の専門家相談(産業医・メンタルヘルス専門医)を検討します。

5. ケアも含めて記録に残す

5-1. フォロー内容の記録

事案対応の記録に、被害者への配慮としてどのような対応をしたかもあわせて残しておくと、会社として組織的に配慮を行っていたことを後から確認できます。
記録すべき項目はこちらの記事にまとめています。

5-2. 上長向けフォローの具体例

事案当日は「今日は大変でしたね。無理せず、困ったことがあればまた話してください」と短く声をかけ、詳細な事実確認は翌日以降に分けます。
1週間後は同じ業務・時間帯への配置調整を本人と確認し、1か月後も記録にフォロー実施日を残して必要なら産業医・EAPの案内を再度提示します。

6. よくある質問

Q. 本人がケアを拒否した場合は?

強制はできませんが、「いつでも相談できる」旨を伝え、定期的な短い声かけは続けます。
拒否自体も記録に残し、後から「何もしなかった」状態にならないようにします。

Q. 加害者が同僚の場合、配置転換は必要ですか?

本人の希望と安全確保の両方を確認し、一時的な配置転換・シフト調整を検討します。
詳細は個別事案として専門家に相談してください。

Q. アルバイトにも同じケア義務がありますか?

雇用形態を問わず、従業員への安全配慮が求められます。
非正規雇用者への教育・周知はアルバイト・パート向け教育も参照してください。

Q. ケア担当者も疲弊します

窓口担当・上長も二次的ストレスを受けます。
担当者間の引き継ぎ・スーパーバイズ(上長による支援)体制をあらかじめ決めておきます。

Q. チーム全体への影響(目撃者ケア)は?

目撃した同僚にも短い声かけを行い、必要なら同様に相談窓口を案内します。
詳細な事案内容をチーム全体に共有しないよう、ケアと情報管理を分けます。

Q. リモートワーク従業員へのケアは?

オンラインでの定期1on1、チャットでの短い確認、必要なら対面またはオンライン面談を組み合わせます。
非対面だからこそ、記録にフォロー日を残す習慣が重要です。

7. 組織文化としてのケア

被害者ケアは事案発生時だけでなく、日頃から「弱みを見せても不利益がない」文化を育てる取り組みです。
管理職研修に「報告を歓迎する声かけ」を標準カリキュラムとして組み込み、評価面接でカスハラ事案への対応実績を軽視しない方針を示します。
ケアの実施記録は、会社が組織的に安全配慮を行っている証跡にもなります。

8. ケア記録の項目例

事案記録に「フォロー実施日」「実施者」「実施内容(声かけ・業務調整・専門窓口案内等)」「本人の希望」を追記します。
医学的診断ではなく、組織として行った配慮の事実を残すことが目的です。
四半期レビューでフォロー漏れ案件がないかを確認します。

9. 対応する管理職・相談窓口担当者のケア

9-1. 対応者自身のバーンアウト予防

被害を受けた本人だけでなく、繰り返しクレーム対応にあたる管理職・相談窓口担当者も精神的な負荷を受けやすい立場です。
担当者を固定しすぎず、負荷の高い期間のあとに休息を取らせるなどの配慮も組織として検討します。
管理職自身が「相談してよい」と示すことが、部下にとっても相談しやすい空気につながります。
管理職向けの1on1でも、業務進捗だけでなくカスハラ対応の負担を尋ねる項目を定例化すると、変化に気づきやすくなります。

9-2. 外部EAP・産業医との連携タイミング

社内だけでケアが完結しない場合は、早めに産業医やEAPにつなぐ判断が重要です。
「まだ大丈夫だろう」と様子を見すぎず、本人の変化(遅刻・口数の減少等)に気づいた時点で声をかける運用にします。
連携先の連絡窓口・利用条件は事前に人事側で把握しておき、いざという時にすぐ案内できる状態にしておきます。

9-3. 長期化する事案でのケアの見直し

同一相手からの事案が長期間続く場合、初期に決めたケア内容が形骸化していないか定期的に見直します。
本人の状況は時間とともに変化するため、フォロー頻度や内容を固定せず、都度調整する姿勢が必要です。
担当者を交代する場合は、これまでの経緯とケア方針を引き継ぎ資料にまとめ、本人に何度も同じ説明をさせない配慮も欠かせません。
引き継ぎ資料には事実経過とケア内容のみを記載し、担当者個人の主観的な評価は含めないようにします。

10. まとめ

  • 事案対応と被害者ケアは別プロセスとして設計する
  • 事案直後・数日後の声かけと業務調整を標準化する
  • 「大丈夫です」だけで終わらせず、定期確認を続ける
  • 二次被害防止とセットでメンタルケア体制を整える
  • フォロー内容も事案記録に残す

11. 注意

本記事は一般的な考え方の整理であり、法的助言ではありません
個別事案での医学的判断・法的な判断は、産業医・社会保険労務士等の専門家にご確認ください。

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