事案記録の「主観」と「事実」を分ける書き方テンプレ— 悪い例と良い例
公開: 2026年9月8日
カスハラ事案の記録が「相手の態度が悪かった」「とても怖かった」だけで終わると、後から読む人が状況を再現できません
逆に、感情を一切書いてはいけない、という意味でもありません
2026年10月1日施行のカスハラ対策義務化を踏まえ、事実・行動・発言と、主観・評価を分けて書くテンプレを整理します
1. なぜ分ける必要があるか
1-1. 引き継ぎと外部相談で使うため
次のシフト、エリアマネ、窓口担当、必要時の外部相談先が読むのが記録です
主観だけの文章は、読者ごとに想像が分かれます
様式の基本は事案記録の様式を使い、本記事はその「書き方」に特化します
1-2. クレームとカスハラの判定を歪めないため
「感じが悪い=カスハラ」と書いてしまうと、正当な説明要求まで過剰対応になり得ます
逆に、暴言の具体が無いと「大したことない」と過小評価も起きます
境界の考え方はクレームとカスハラの違いとセットで研修してください
1-3. 従業員の体験も残すため
主観を消すことが目的ではなく、主観を「感想欄」に隔離することが目的です
事実欄と感想欄を分けると、被害の深刻さも、客観経緯も両方残せます
相談窓口への共有時も、同じ分け方が役立ちます相談窓口の設置を参照してください
2. テンプレの骨格
2-1. いつ・どこで・誰が(事実)
記入例: 「2026-09-08 14:12、レジ前、対応者A、同席B」
「夕方ごろ」「入口のほう」は避け、時計と場所名を使います
初動の時刻が曖昧だと、後の判断がぶれます初動対応の整理の時刻記録と揃えます
2-2. 何が起きたか(行動・発言)
記入例: 「相手はカウンターに手をつき、約2分、声を上げて『責任者を出せ、出さないとSNSに載せる』と繰り返した」
「威圧的だった」だけにせず、距離・時間・発言の要約を書きます
発言は可能な範囲で近い文言にし、創作しないことが重要です
2-3. こちらが何をしたか(対応)
記入例: 「定型文で中断を伝え、14:15に店長Cへ引き継ぎ。他客を別レーンへ誘導」
「適切に対応した」は評価なので、行動に落とします
電話・メールの場合も送信時刻と文面要約を残します電話・メール・SNS対応の保存方針と揃えてください
2-4. どう感じたか(主観・任意欄)
記入例: 「声が大きく、身体が近いと感じ、手が震えた」
主観は消さず、事実欄と混ぜないことがポイントです
後から読む管理職は、まず事実欄で判断し、主観欄で負荷を把握します
3. 悪い例と良い例
3-1. 悪い例(主観混在)
「お客様が理不尽で怖く、態度も最悪だった。こちらは一生懸命対応したが聞き入れられなかった。カスハラだと思う」
問題点: 時刻・場所・発言・対応行動が無い。判定が先に来ている
この書き方では、出入禁止や外部相談の検討材料になりにくいです
3-2. 良い例(分離)
【事実】14:12レジ前。相手が返品拒否の説明に対し、机を1回叩き「責任者を出せ。出さないとSNSに載せる」を約2分繰り返し
【対応】14:14に中断定型を伝え、店長へ引き継ぎ。他客を誘導。14:20退店
【主観】机を叩く音と距離の近さで強い不安を感じた
これなら、次の担当が同じ基準で読めます
3-3. 出入禁止・再来店の記録でも同じ型
「また来やがった」ではなく、「〇月〇日に出入禁止を伝達済みの相手が、〇時に入口へ入店」と書きます
伝えた文言と反応も行動で残します
出入禁止の整理は出入禁止・取引拒否の考え方を参照してください
4. 研修とマニュアルへの落とし込み
研修では、悪い例を良い例に書き直すワークを10分入れると効果が大きいです
マニュアルの記録ページに「禁止表現リスト」(態度が悪い/モンスター/非常識 等)を置き、代替の書き方を示します
研修は研修実施の進め方、記録の残し方は研修記録の残し方、マニュアルはマニュアル作成の進め方、方針は方針ひな形を参照してください
アルバイトには、より短い記入例カードを渡すと定着しますアルバイト・パート教育もあわせて使います
5. その場で使える記入チェックリスト
チェック1: 時刻は分単位か
チェック2: 場所は店内の具体名か
チェック3: 相手の行動・発言が動詞で書かれているか
チェック4: こちらの対応が行動で書かれているか
チェック5: 「態度が悪い」「理不尽」などの評価語は主観欄に移したか
チェック6: 判定(カスハラか否か)を本文の最初に書いていないか
外部連携を検討する場合は、事実欄が厚いほど説明が速くなります弁護士・警察連携の整理も確認してください
補足. 書き直しワーク用の追加例題
元文: 「電話でモンスタークレーム。ひどい言葉だらけで疲弊した」
書き直し: 【事実】15:03入電。約12分、同一要求を繰り返し「名前を晒す」と発言。【対応】15:10に中断定型、チケット化。【主観】強い疲労と不安
元文: 「常連なのに非常識。例外を認めないと騒いだ」
書き直し: 【事実】常連顧客Xが規約外の無料要求。声を上げてレジ前に約8分滞留。【対応】例外不可を説明し店長へ。【主観】周囲の視線が気になり緊張した
研修では、受講者に元文を渡し、三見出しへ分解させると定着が速いです
完成した良い例は店舗の「記入見本」フォルダに匿名化して保存し、新人の初日に見せます
6. よくある質問
Q. 発言を一字一句書けますか?
難しい場合は近い要約で構いません
「〜と言った(要約)」と明示し、創作しないことが重要です
Q. 主観を書いてはいけないのですか?
書いてよいです
事実欄と混ぜず、主観欄に分離してください
Q. 複数人の記憶が食い違うときは?
各自が事実欄を書き、食い違いを隠さず並記します
一本化の圧力で記憶を改変しない方が安全です
Q. 中小で様式が無い場合は?
メモ用紙でも「事実/対応/主観」の三見出しを手書きで始められます
中小向け対応の整理と準備チェックリストも参照してください
Q. 義務化との関係は?
記録は体制整備の実務中核です
全体像はカスハラ対策義務化(2026)を確認してください
補足2. 管理職がレビューするときの観点
事実欄に評価語が混ざっていないか、時刻が分単位か、対応行動が書かれているか、主観欄が空欄のまま無理に消されていないか
レビューは添削の場であり、書いたスタッフを責める場ではありません
良い記録はその場で共有し、店舗の見本に匿名化して追加します
週次で3件だけでもレビューすると、書き方のバラつきが急速に揃います
7. まとめ
- 記録は事実・行動・発言と、主観・評価を分けて書く
- テンプレは「いつどこ誰/何が起きた/何をした/どう感じたか」
- 悪い例は評価先行、良い例は動詞と時刻で再現できる
- 主観は消さず隔離し、従業員の負荷把握にも使う
- 書き直しワークと禁止表現リストで研修に落とす
書き方テンプレは、完璧な文章家を作るためではなく、誰が読んでも同じ光景が浮かぶためです
最初は時間がかかっても、見本が増えると記入は速くなります
「忙しいから主観だけでよい」は、後工程の管理職・窓口・外部相談の時間を奪う借金だと考えてください
事実と主観を分ける習慣は、カスハラ以外のインシデント記録にも転用でき、店舗の文書品質全体が底上げされます
迷ったら「カメラに映るかどうか」で事実か主観かを切り分けると早く書けます
映らない内心は主観欄へ、映る行動は事実欄へ、が簡易ルールです
8. 注意
本記事は一般的な対応の考え方の例示であり、法的助言ではありません。
事案記録の保存・開示・外部提出の扱いは個別事情により異なるため、自社規程と必要に応じた専門家確認に従ってください
まずは無料で基本方針を作ってみる(ログイン不要)
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